岩村さんのこと
リビングにいらっしゃる間もたいていの時は野球帽を深くかぶり、車いすにうずくまって、斜めにものを見ていらっしゃる。こちらが声をかけてもほとんど返事がありません。
介護者の毎日の記録によると、ご自分が気に入らない同室の方にはにらみつけるので、ちょっと怖がられている存在だとか。
またあまり高齢でもなく、これまで力仕事をされてきた方だそうで、気に入らないことがあると手も足もでるらしい。そんな情報をいただいているので、私もこれまであまり積極的にはお声掛けもしませんでした。
ある日、同じテーブルの野村さんが食事にも手を付けずにうつむいていらっしゃいました。
珍しいことなので何があったのかお聞きしました。なんでもかかりつけの病院に尿バルーンを取り換えに行くのが、そこの看護士さんに意地悪されるのでとても嫌だと。
その様子を涙ながらに切々と訴えられました。
ふと横を見ると、岩村さんもボロボロ涙を流していらっしゃいます。なんともらい涙だったんです。
いつもは怖いお顔をされておられるのに(ごめんなさい)、じつはとてもやさしい心をお持ちの方なんだということがわかりました。